愛されるとは、愛すること｜Mrs. GREEN APPLE『アンラブレス』レビュー

今回紹介する曲は、Mrs. GREEN APPLEのニューアルバム『ANTENNA』に収録されている『アンラブレス』です。

英語で表記すると"unloveless"ですが、「愛のなさ」を表す"loveless"に否定の接頭辞"un-"を付けた造語に近い言葉ですね。つまり愛の存在をタイトルに掲げた曲になるわけで、バンドの黎明期から愛について歌ってきたミセスが今どう愛を表現するのか、タイトルを見た時にとても気になりました。

イントロは等間隔に鳴るキーボードに前乗りスタッカートのドラムを重ねた、ミセスっぽい緩急のあるメロディーから始まります。「いつものミセスだ🍏」とノリノリで聴いていると、歌い出しの歌詞に頭をぶっ叩かれました。

馬鹿みたいだね　そんな凹んで大層ね
夜中も携帯弄ってる元気があるじゃないのMrs. GREEN APPLE『アンラブレス』, Lyrics：Motoki Ohmori

最近はそっと背中を押してくれる応援歌が多かったのもあって忘れかけていましたが、この一瞬で大森氏の本髄を思い出しました。 聴く人を居丈高に突き放すようでいて、俗物に無関心な態度がかえって聴く人それぞれにとっての寄り添いになる。 「あなたの感情や悩みなんて些細な事ですよ」って言ってくれた方が楽になることってあるじゃないですか。

今世紀最大のミスを犯したとしても　大したことじゃ無いものMrs. GREEN APPLE『アンラブレス』, Lyrics：Motoki Ohmori

ある種の無関心と諦観が見え隠れしています。これがミセスというバンドの最も際立った良さだと主は考えています。

サビに入ってもパンチラインが止まりません🔥

愛されたいんだと嘆く暇があるのって　偉そう。余裕そう。
ああだこうだと叫ぶ暇があるなら　愛そう。よく愛そう。Mrs. GREEN APPLE『アンラブレス』, Lyrics：Motoki Ohmori

主はこの曲を聴いている最中、ぐうの音も出ませんでした(笑)。人から愛されたいと思っているうちは、まだまだ傲慢で余裕があると大森氏は言うのです。

だいたい愛されるかどうかなんて自分でコントロールできるものでもないし、そこから充足を得ようとすることがそもそも間違いなのかもしれません。 だったら、愛することで自分を満たしていく。共感でしかない。そうすれば自然と愛されるようになる気がします💛

でもこれが理想論に近いことも、理想と現実の狭間で苦しんでいる人がたくさんいることも、彼らは分かっています。

底なしのコップの様に　何を注いでも抜ける
皮肉の様に　我々はまともな様に
必死こいて繕う　矛盾のストーリーMrs. GREEN APPLE『アンラブレス』, Lyrics：Motoki Ohmori

歳を重ねるほど、理想と現実のギャップを取り繕って毎日生きることの大変さや尊さが分かってきて、今この曲に出会えてよかったと心底思います。

さて、これまでを踏まえてタイトルに戻ると『アンラブレス』とは「愛の再定義」なのではないでしょうか。「愛されない」という他者に依存したlovelessを否定することで、「愛したい」という自分に立脚したloveを新たに定義している。ある意味愛に悩むすべての人に贈りたいエールソングにも思えます。それにしても、他者を愛することが本質的には自分を愛することになるとは、何とも皮肉で幸せなものですね。

それではまた！

シンデレラになれなかったすべての人たちへ｜TOMOO『Cinderella』レビュー

本日レビューするのは配信スタートしたばかりのこの曲。

繊細な歌詞表現と美しいメロディーラインが持ち味のミュージシャンで、ブログ主もその独特な感性に魅了された一人です。彼女の新曲がリリースされるたびに「どんな歌詞が聴けるんだろう」とワクワクしてしまいます。
ブログ主はこれまでどちらかといえばメロディーに重きを置いて音楽を聴くタイプだったんですが、彼女を知ってからは、音楽を構成する要素として歌詞がメロディーと同じくらい重要だと考えるようになりました。今の時代にはそぐわない表現かもしれませんが、女性の繊細な感性だからこそ生み出すことのできる歌詞がたくさん散りばめられています。触れたらすぐに壊れてしまいそうな宝石箱みたいに。

今回の新曲の中で、一番しびれた歌詞がこちら。

最寄り駅に着いたら　霧雨がタクシーの列冷やしてるTOMOO『Cinderella』, Lyrics：TOMOO

この曲は恋がうまく行かなかった男女の様子を女性側の視点から描いた作品です。恋が終わってしまい、行き場のない気持ちを抱えたまま最寄り駅に着くと、降るとも降らないとも言えないような雨が辺りに満たされていて、普段なら気にも留めないタクシーを待つ人の列さえ物悲しく見えてしまう。女性の心情を風景とリンクさせて、見事に表現した歌詞だと思います。

あと、この部分も外せない。

変われないままの私を許してさ
君はもう誰かに出会って　新しいコートが似合ってるよTOMOO『Cinderella』, Lyrics：TOMOO

婉曲表現の極致だと思います。シンプルに「新しい彼女ができてるよ」とか「新しい人の隣で笑ってるよ」としても十分成立するところを、「コートが似合ってるよ」だなんて。脱帽です…。
※ここからは少しブログ主の妄想にお付き合いください。
コートって自分の一番外側にあるじゃないですか。ある意味その人を包み込む殻として、その人の想いや情熱をよく表す部分だと思うんですよ。恋人が変わればその人の内面も変わって、着たいコートも変わる。
私といた頃に似合ってたコートを君はもう着たいと思わないんだね。悲しすぎる。

歌詞の素晴らしさばかり語ってしまいましたが、メロディーも非常にドラマティックな構成となっています。この曲は
（Aメロ→Bメロ）×2→サビ→Cメロ→転調して大サビ
という流れで進んでいくんですが、サビの「変われないままの私を許してさ」の部分のコードが1回目（MVの2:36ごろ）と2回目（3:43ごろ）で変わっていて、1回目を聴いた後に2回目の進行が来るとめちゃくちゃ感動するので、ぜひ聴いてみてください。

サビ1st

サビ2nd

現在TOMOOさんは全国5大都市を巡るライブツアー"BEAT"を開催中です。ブログ主もファイナルとなる東京公演に参加する予定で、『Cinderella』を生で聴けるのを今から楽しみにしています。

それではまた！

さあ、伝説を始めよう。｜Mrs. GREEN APPLE『ニュー・マイ・ノーマル』レビュー

ついにあのバンドが活動再開しましたね。

「フェーズ1完結」をもって2020年7月から活動休止していたMrs. GREEN APPLEが、新曲『ニュー・マイ・ノーマル』のMVを公開しました。ブログ主は活動休止前から何度もライブに通うほどの大ファンだったので、今回の活動再開は本当に嬉しいです。以前からのファンだけでなく、活動休止中に初めてミセスの音楽に触れた新しいファンにとっても、現在進行形でミセスの活動を応援できることは非常に幸せなことだと思います。

新曲は「フェーズ1のミセス」をどこか彷彿とさせる、バンドサウンドとストリングスが融合したアップテンポなナンバーとなっています。
そして『ニュー・マイ・ノーマル』というタイトル、混沌とした時代を生きる我々に向けたエールにも思えるし、新たなメンバー編成で「フェーズ2」を開始する彼らの決意にも思えるし、非常に含みを持った開幕に相応しいタイトルだと思います。

価値観が多様化し、何が普通なのかすら曖昧になった現代において、一人ひとりが「私のノーマル」として自分の価値観を肯定できるような世の中になれば、もっと世界はあたたかくなるんじゃないかなぁ。そして多分ミセスは「フェーズ2」の開幕にあわせて、自らの音楽を再定義し、既存の枠を飛び越えたエンターテイメントを生み出そうとしています。きっと彼らはそれくらいのスケール感で未来を見据えていると思います。

エンドレス　鳴り止まない　酸いも甘いも引っ掻き傷も愛して
足りない何かを今も待ち侘びてますMrs. GREEN APPLE『ニュー・マイ・ノーマル』, Lyrics：Motoki Ohmori

歌いだしのフレーズからVo.大森節炸裂。大森氏の紡ぎ出す陰りを帯びたリリックは、ビジュアルやメロディの明るさとは対照的で、その内容が一層際立つものとなっています。

私色で彩って　誰とも比べないスタンスで
ある日突然花が咲いたらラッキー　そんな調子で生きろエヴリデイMrs. GREEN APPLE『ニュー・マイ・ノーマル』, Lyrics：Motoki Ohmori

ミセスの曲って、決して「頑張れ」とは言わずに背中をポンっと押してくれるような歌詞が多いんですよね。「フェーズ2」を待ちわびていた今を生きるすべての人に寄り添うような、つくり手・演じ手の優しさを感じます。今回、活動休止を経たことで、ミセスでしか得られない視聴体験が確実に存在することを痛感しました。
間違いなく唯一無二の表現者達。

「フェーズ2」を高らかに開幕宣言したMrs. GREEN APPLE。
彼らがどんなエンターテイメントを見せてくれるのか、今後も目が離せませんね！

それではまた！

見える風景は人それぞれ｜緑黄色社会『Landscape』レビュー

本日レビューするのはこちらの楽曲。

1月26日に発売された緑黄色社会の「Actor」から、涼しげで軽快なメロディが印象的な一曲です。リョクシャカはここ数年でメディア露出がめちゃくちゃ増えて、今最も勢いのあるバンドといっても過言ではないと思います。この「Actor」も例外ではなく、収録14曲のうち8曲がタイアップ付きという活躍っぷり。確かに街中やテレビCMでもVo.長屋さんの声をよく耳にする気がしますよね。

（今回紹介する曲はスズキの「ソリオ バンディッド」のCM曲になっています。乗りた～い笑）

『Landscape』はそんなアルバムの13曲目（当たり前のようにタイアップ。笑）で、エンディングのしっとりとしたバラード前にアップテンポな曲で心を温めてくれます。聴いてるとつい耳馴染みの良いメロディに耳を持ってかれそうになるんですが、実はこの曲、歌詞が素晴らしく良い…！

Landscape（＝風景）とタイトルにもある通り、風景や景色といった言葉を織り交ぜながら、誰かの大切な人への感情を見事に歌い上げています。

あれこれ探してきた　切り取って残してきた
溝に咲いた花　君はファインダーから　僕はとなりから緑黄色社会『Landscape』, Lyrics：小林壱誓

歌い出しのフレーズからすでに「君と僕」の暖かな関係性が感じられますよね。曲全体を通して、恋愛に限らず聴く人それぞれの大切な存在に置き換えられる歌詞になっていてとてもいいです！

そして中でも注目すべきは2番サビの歌い出し。

僕の盲点は　君の焦点だ　だから君に惹かれたこと緑黄色社会『Landscape』, Lyrics：小林壱誓

このフレーズめちゃくちゃ良くないですか？？

恋愛でも友情でもよく言うじゃないですか。「自分にないものを持っている人に惹かれる」って。「僕」が気付かない部分が、実は「君」にとってはものすごく大事なことだったりするし、その違いを個性として認め合うことで初めて両者の関係性を深めることができますよね。

それを「盲点」と「焦点」の対比で、それも『Landscape』っていう曲の中で表現しようと思うセンスが脱帽。帽子何着あっても足りまセン。リョクシャカのフィルターを通すと、違いを認め合う大切さがこんな素晴らしいフレーズになるのかと唸りました。個人的にはここ数年で聴いた歌詞の中で一番感動しました。

リョクシャカはメンバー全員が作詞・作曲できるんですが、誰がつくってもこの曲と同じくらいキャッチーで奥が深い曲が出来上がるのが本当にすごい。もはや末恐ろしいレベル。気になった方は「Actor」ぜひ全曲聴いてみてください。リョクシャカの計り知れないポテンシャルを分かっていただけると思いますよ！

それではまた！

デビュー１周年を目前に控えたNiziUからの感動ファンソング｜NiziU『Need U』レビュー

昨日、NiziUの『Need U』MVが公開されました。こちらは11月24日発売の1stアルバム『U』の収録曲で、ファンソング的な立ち位置の楽曲のようです。

NiziUとは？
Sony Musicと韓国大手芸能事務所JYP Entertainmentによるオーディション
『Nizi Project』から誕生したグローバルガールズグループ。プレデビュー曲『Make you happy』は世界各国の音楽配信サイトで計109冠を獲得し、MVは公開半年で再生回数２億回を突破した。

かくいう私もNizi Projectにドハマりした人間の一人でして、昨年のデビューから破竹の勢いで活躍する彼女たちをひっそりと応援させてもらっています。今年の紅白出場も決まり、1stアルバムの発売を控えたこのタイミングでのファンソング。グッとこないわけがありません。

NiziUの苦悩が歌詞から見える

順風満帆に見える彼女たちですが、コロナ禍の影響でライブやファンミーティングが制限され、ファンの前に立つ機会が極端に少ない一年だったと思います。自分たちを応援してくれるファンと直接交流できる機会がない…。活動する中で少なからず苦悩があったでしょう。そんな彼女たちの不安は歌詞にも表れています。

この気持ち一緒なの？　聞こえてる？　My Voice
なんとなく寂しくてスワイプしちゃうSNS　指先じゃリアルじゃない
NiziU『Need U』, Lyrics：Kanata Okajima, Soma Genda

曲調が明るいだけに、表情や詞の内容がより一層切実に感じられます(泣)。 MV見てるとどうしても感情移入しちゃいますね。演者としては観客の存在が絶対必要で、その応援が一番のパワーになるはずだもんね…。

ファンとの交流を通じて得た確信

そんな中、NiziUにとっての大きなターニングポイントがこの間ありました。ロックフェス『SUPER SONIC』に出演し、初の有観客ライブが実現したんです。彼女たちにとってこのライブは本当に特別な瞬間だったと思います。今まではSNS上でしか確認できなかったファンが目の前にいる…！

Photo：https://supersonic2020.com/photo/331/detail/12

みんなめちゃくちゃいい顔してますね。自分たちを応援してくれるファンがいることを確信できたという意味で、このライブは彼女たちに大きなインパクトを与えたものだと思います。直接交流できたことでこれまで以上に今後の活動に対する自信がついたのではないでしょうか。やっと地に足つけて、応援してくれる人たちに自分たちのパフォーマンスを届けられる。みたいな。

感じてるYour love　離れててもそばにいるよ
会えない時こそ研ぎ澄まされるの　夢見たいからもっと信じてるね
NiziU『Need U』, Lyrics：Kanata Okajima, Soma Genda

ファンの存在と応援を自分たちの目で確認できたからこそ、彼女たちは自分たちの言葉でこの楽曲を歌えているんだと思います。プロデューサーのJ.Y.Parkさんは語るように歌いなさいとよく言いますが、まさにこれです。NiziUが語りかけてくるんです。

新曲を出すごとに洗練されていく９人

余談ですが、今回の楽曲は日本のクリエイターの方がつくっているそうで、日本人に耳なじみの良いメロディーと歌詞だなと感じました。運営側としても日本のファンに向けて日本語でメッセージをちゃんと伝えたかったんじゃないかな～なんて思ってます。この楽曲をきっかけに外国のファンにも、日本語の曲ならではの感性だったり言葉の暖かみが伝わればいいなと思いますね。

ちなみに今回の個人的MVPはリクちゃんです。一つの楽曲の中で歌い方を使い分けていて、表現力の高さを感じました。さすがメインボーカルといったところ。ぜひ聴き比べてみてください。ver.2の歌い方超好き。

リクちゃんver.1

リクちゃんver.2

メンバー全員からすでに貫禄のようなものを感じるのは私だけでしょうか。MVではみんなナチュラルな感じで、NiziUにとってのベストなスタイリングに徐々に近づいてる気がしてなりません…！

楽曲、ビジュアルともにJKpopの一つの完成形が近い将来見られるかも…なんて妄想したりしてます。NiziUの今後の進化に目が離せませんね！

それではまた！